人生モラトリアム

 

中学卒業以来音信不通だった友だちから年賀状が届いた。すぐに連絡してみんなで久しぶりに集まろうってなって地元の居酒屋を予約した。

 


高校を卒業してグラウンドで遊ぶ楽しみを忘れ、ビールで悲しみを流し込む夜を覚えたと言っていた。これは俺が勝手に脚色した表現だけど、まあそんな感じ。社会人というものが本質的にどういうものか知らないけど(たぶん死んだ顔して満員電車で通勤して、週末に酔いつぶれてるとTwitterで面白おかしく晒されてる人達)、そいつらはあの頃に戻りたいが口癖らしい。同じ作業を毎日繰り返し淡々と過ぎていく日々。東京で大学生やってたら多少なり似たような感情に踏み入ることが俺にもある。

 


そんな時、一体のポケモンを思い出した。誰でも持ってて草むらから飛び出てきても大抵は無視されるようなポケモンビーダル。ひでんマシンで「いあいぎり」「いわくだき」「ロッククライム」「かいりき」だけを覚えさせられたポケモンの気持ちを考えたことがあるだろうか。戦闘で出すことはまずなくても手持ちポケモンの中には常にいた存在。どれだけレベルが上がってもほかの技を覚えることもできない。ただ強制的に覚えさせられた仕事を機械的にこなすことだけを求められる、向上を期待されない存在。どれだけ多くの仕事をこなしても周りとのレベルは開いていく一方。

ほんとごめんな。


俺はそのことに気づいた大2の夏、使わなくなったDSに充電コードを繋いで、わすれオヤジのとこへ行った。最後まで共に旅をしたビーダルを解放してあげたかった。名前は「ぶたたぬき」。めちゃくちゃイカしてる。こいつがいなければ俺はチャンピオンロードにさえたどり着けなかった。こいつは立派に自分の仕事をやり遂げてくれた。チートで手に入れた色違いのレックウザにはロッククライムはできなかっただろう。ぶたたぬきにはぶたたぬきの、レックウザにはレックウザの仕事がある。俺の人生もうちょい付き合ってくれてもよかったんじゃね?

1個ちょちょいとぶっ壊してほしい岩があるんだけどなー


ポケモンリーダーになりたいなんて現実世界じゃ到底言えない。意味わからんし。

 


ぶたたぬきにいわくだきくらいは教えてもらっとけばよかったな。